豊田通商株式会社
国内企業が製品を輸出する際には、品名や統計品目番号(HSコード)の管理、場合によっては原産品判定番号の取得・管理といった輸出業務を行う必要がある。またこれらの情報をやりとりする相手は多岐にわたる。そのため貿易事務を行う企業の多くは、度々必要な情報の不足や誤解が発生し、その確認作業に多くの工数が割かれるという悩みを抱えている。さらに取扱品目や相手国が多様であればあるほど、業務プロセスも多様化し、標準化が思うように進まず、業務が属人化しがちだ。豊田通商 グローバル部品・ロジスティクス本部では、主に自動車生産用部品の輸出を行っており、輸出業務に上記のような課題を抱えていたが、情報の共有化・見える化を実現できる仕組みを構築して、業務効率を大幅に向上させた。本書では、同社が行った業務改善へのプロセスを明らかにする。
―始めにグローバル部品事業統括部の業務内容について、お聞かせください。
田部氏:われわれグローバル部品事業統括部は豊田通商が展開する7つの営業本部のうちのグローバル部品・ロジスティクス事業に属しており、主に自動車生産用の部品を海外へ輸出しています。輸出業務は地域ごとに分けられた営業部・グループで行っております。グローバル部品事業統括部は、輸出や、輸入を含めた全体の事業管理、DXやカーボンニュートラル(CN)の推進を担当しています。
輸出業務の一つとして、輸出製品の品名や統計品目番号(HSコード)などの情報を管理する必要があり、特に輸出先が日本とEPA(Economic Partnership Agreement:経済連携協定)やFTA(Free Trade Agreement:自由貿易協定)を締結している国であれば、製品の原産地が日本であることを証明する原産地証明書を取得し、それにひも付く原産品判定番号を管理する必要も出てきます。
―原産地証明書を取得しなければ、相手国とFTAやEPAを締結している場合でも特恵関税の適用を受けることができないということですね。
田部氏:まさにその通りで、輸出先国から特恵関税の適用を受けて日本製品のコスト競争力を強化することは、私たちの重要な使命です。しかし一方で原産地証明書を取得するための業務プロセスは複雑で、協定ごとに必要な書類も異なります。
相対しなければならない関係者も多岐にわたり、さらに各種情報のやりとりはメールとExcelベースで行っていたので、担当者以外にはその業務の詳細や進捗状況も分からないという状態だったのです。業務効率は担当者の経験に大きく依存し、業務自体も属人化していたという大きな問題がありました。そこで目指したのが“メールのキャッチボールとExcelのバケツリレー”からの脱却です。
―状況を改善するために、御社は情報の共有化・見える化を実現するための仕組みを構築されました。そのきっかけは何だったのでしょうか。
田部氏:現在グローバル部品・ロジスティック本部ではDXとCNに注力していますが、特にDX分野では、グローバルなサプライチェーン全体を可視化して事業継続性の強化を図るとともに、データを利活用してお客様サービスを向上させることを目指しています。
元々私も別のDXプロジェクトに参画しており、DXを活用した業務改革の必要性を感じていました。
一方、日本では2022年1月からRCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership Agreement:地域的な包括的経済連携)という新たな協定が発効し、自由貿易の拡大が見込まれました。それに伴い私たちの輸出業務もさらに増えていくことが予想されます。
輸出業務の仕組み化は、DXへの注力という方向性に、外部の環境変化もちょうど重なったタイミングで一気に動き出したというわけです。
―実際に仕組み化を進めるにあたっては、どのようなステップを踏まれたのでしょうか。
田部氏:今回メインターゲットにしたのは、EPA協定に関わる業務部分で、当初は迅速に仕組み化、すなわちシステム化を図るために、パッケージを利用することを考えていました。
しかしパッケージを導入する際には検討規模が大きくなり、他部門との調整が発生して進みにくくなるのではないかという不安がありました。そこで考えたのが自分たちでノーコードによる開発を進めることでした。
―ノーコード開発は、ユーザー部門の皆様自身が手を動かしてシステムを開発していくことになるので、業務が増えるという側面もありますがそこはどのように乗り越えられましたか。
田部氏:2021年当時、ノーコード開発は社内でもほとんど実績がありませんでした。しかし、DX推進という会社の方向性もあり、着手するには非常にいい機会だと考えました。
当時は非IT部門の人がノーコードやローコードのツールを使って自分たちでシステムを開発する“市民開発”という言葉もいまだ出てきていませんでしたが、今後、私たちのようなエンドユーザー側のITリテラシーを高めていくことができれば、環境変化にも柔軟に対応することができ、DXの推進をさらに加速させていくことが可能だと考えました。
そこで懇意にしているコンサルティング会社に相談して紹介を受けたのが、B-EN-Gの提供するクラウド業務システム構築ツール「Business b-ridge」でした。
―他の製品も比較検討されたのでしょうか。
田部氏:もちろん競合製品があることも知っていましたが、まずは紹介を受けたBusiness b-ridgeについて、B-EN-Gから話を聞くことにしました。そこで“このツールなら業務プロセスを効率化する仕組みを構築できるだろう”と強く感じたのです。
―具体的には、どのような点を評価されたのでしょうか。
三浦氏:まず2021年9月に、私たちのやりたいこと、実現したいことを伝えて、B-EN-Gにプロトタイプを作ってもらいました。例えば、“業務がどこまで進んでいるかというプロセス管理はできますか”や、“ステータスが進んだときに通知メールはどう飛びますか、その際にファイルは添付できますか”という要望や疑問を伝えて、それに対応するプロトタイプを作ってもらったのです。
出来上がったプロトタイプを確認したところ、Business b-ridgeには私たちがイメージしていた通りの動作や機能が備わっていました。“こういうふうにできたらいいな”とイメージしていたものが、まさに形になって現れた感じです。
Business b-ridge利用前の業務の流れ
構築したEPAシステムの概要
※記事内における組織名、役職、数値データなどは2024年2月現在のものです。閲覧される時点では変更されている可能性があります。