倫理指針への柔軟な対応を実現する 倫理・ボランティアシステムを構築

第一三共株式会社 / アステラス製薬株式会社

医薬品メーカーにとっては、「人を対象とした医学系研究」を行う際には、「個人情報の保護に関する法律」「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」など法令・指針などを遵守しなければならない。第一三共株式会社およびアステラス製薬株式会社では、ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)が提供するクラウドサービス「Business b-ridge(ビジネスブリッジ)」を基盤に「倫理・ボランティアシステム」を構築。国の倫理指針の改定にも柔軟に対応でき、コンプライアンス管理を適切に行う、創薬研究プロセスを効率的に進める仕組みを実現した。

写真左から、
アステラス製薬株式会社 研究本部 研究統制部コンプライアンスグループ 課長 柴田洋 氏
アステラス製薬株式会社 情報システム部 R&Dパートナーグループ 課長 小林弥生 氏
第一三共株式会社 研究統括部 研究基盤管理グループ 主査 山田親臣 氏
第一三共株式会社 バイオロジクス本部 バイオ企画部 バイオ企画グループ 主査 岡部邦典 氏

第一三共株式会社 / アステラス製薬株式会社

導入製品

  • bReeV-CS倫理ボランティアシステムPowered by Business b-ridge

導入前の課題

  • ・システムの老朽化により法・指針改正などへの柔軟な対応が困難
  • ・システム間のデータ連携に手作業が必要なため、作業が煩雑化
  • ・研究の計画に変更が発生した際の迅速な把握と対応が困難

導入効果

・審査から承認までのプロセスと審査資料の一元管理により、検索や変更が容易になり、審査資料の整合性を損なうリスクが解消
・承認プロセスの期間が自動化により約半分に短縮
・事務局業務の工数が約3分の2に削減
・クラウドの活用によって運用管理の負荷が大幅に軽減
・各社それぞれで行っていた法・指針改正に伴う対応を一元的に同じ視点で、即時性高く対応可能

Business b-ridge選定の理由

共同利用が可能であり、かつ、信頼性やセキュリティが担保できるクラウドサービスであった

導入の背景

創薬における倫理指針への対応は各社独自のシステムで行っていた

第一三共株式会社(以下、第一三共)は、「革新的医薬品を継続的に創出し、多様な医療ニーズに応える医薬品を提供することで、世界中の人々の健康で豊かな生活に貢献する」という企業理念に基づき、医療サービス全体を視野に、アンメットメディカルニーズの充足に努めるほか、ワクチン、ジェネリック、OTC医薬品など、多様な医療ニーズに応える医薬品を提供している。
一方、アステラス製薬株式会社(以下、アステラス製薬)は、「先端・信頼の医薬で、世界の人々の健康に貢献する」という経営理念に基づき、患者のニーズに応える革新的な医療ソリューションを提供する。イノベーションを継続的に創出することで、科学の進歩を患者の価値に変えるとともに、アンメットメディカルニーズに応える革新的な医療ソリューションを提供し続けることを目指している。

第一三共、およびアステラス製薬のような新薬メーカーは、創薬過程におけるヒト由来の試料や情報を利用した研究を、国が定める「人を対象とする医学系研究に対する倫理指針」や「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に基づいて実施している。
一般的に創薬開発の研究は、医学系研究の実施に向けた倫理面の申請、承認から実施、報告、記録の保管といった一連のプロセスを管理する必要があり、そのためのシステムが「倫理システム」である。一方、研究で必要となる生体サンプル提供のための研究協力者(ボランティア)の募集や実績を管理するために必要となるのが「ボランティアシステム」である。いずれも多数の関係者間のワークフローがあり、また、相互の情報連携も必要となる。この業務プロセスは、多くの製薬会社で共通の部分が多いものの、各社それぞれが独自の手法やシステムを利用して管理されているのが実態だ。

第一三共の課題

一貫性のないワークフローで業務が非効率に

前述の「倫理」と「ボランティア」の2つのシステム(以下、倫理・ボランティアシステム)について、第一三共 バイオロジクス本部 バイオ企画部 バイオ企画グループ 主査(当時は、IT企画部 推進グループに所属)の岡部邦典氏は次のように説明する。
「システムをオンプレミスのフルスクラッチで開発していたのですが、老朽化により法改正などに柔軟に対応することが困難になっていました。また、いくつかのシステムを組み合わせて使っていたのですが、システム間の連携には手作業が必要な部分があり、作業が煩雑で負荷が高くなっていました」
また、第一三共 研究統括部 研究基盤管理グループ 主査の山田親臣氏は業務面での課題を次のように話す。
「とにかく使いにくいシステムでした。例えば、申請はWebアプリですが、承認は別の専用アプリと操作がばらばらで、ワークフローも別システムでした。審査資料も、別のアーカイブシステムに保管しなければならなかったので、必要なときに、必要な資料を見つけることが非常に困難でした」

アステラス製薬の課題

システム間の情報のずれも懸念

一方、アステラス製薬でも旧来のシステムに課題を抱えていたという。情報システム部 R&Dパートナーグループ 課長 小林弥生氏は、「基盤とアプリケーションを別々に開発していたので、連携部分に課題がありました。また、構築して約10年が経過していたので、技術が古く、少しの修正でも時間がかかっていました。法改正は、施行の日が決まっており、その日までにシステムを変更しなければならないのですが、ぎりぎりのタイミングになることが多く、対応に苦慮しました」と話す。
2つのシステムからなるリスクを、アステラス製薬 研究本部 研究統制部 コンプライアンスグループ 課長の柴田洋氏は指摘する。「倫理システムで変更が発生した場合、その変更を迅速に把握しなければならないのですが、倫理システムとボランティアシステムは連携されておらず、情報のやり取りに手作業が必要でした。そのため、時間的な情報のずれが生じてしまうリスクがありました」

導入理由

メーカー間共通の課題に対応するシステムの共同利用のメリットに着目

倫理・ボランティアシステムで同様の課題を抱えていた第一三共とアステラス製薬。両社が今回、共同で取り組むに至った背景には、両社が参画していた「医薬情報システム研究会*」の存在があった。岡部氏は、「研究会では、直接的な競争力にあたらない部分に関して業界各社で協力し、基盤的なもの作りができないかという話をしていました。そのテーマの1つとして倫理・ボランティアシステムのプロジェクトが立ち上がりました」と当時を振り返る。
また小林氏は、「社内に持ち帰りビジネス側への提案の際に研究者からも協力したいという返事をもらえたため、プロジェクトを進めることができました」と話す。こうして、第一三共、およびアステラス製薬2社による倫理・ボランティアシステム構築のプロジェクトがスタートした。
山田氏は、「今回は、2社によるシステム開発のため、微妙な要件の違いをすり合わせる作業を何度も繰り返しています。国の倫理指針には、明確な説明がないことから、解釈の相違に伴うリスクを解消するためのすり合わせに時間をかけました」と話す。

*製薬会社が参画し、製薬業界の研究開発、生産、QAなどに関わるシステム化に関する直接情報や背景情報の共有・評価を基礎に、相互啓発を目的として発足された研究会

システム選定には法改正への柔軟な対応力とセキュリティを重視

半年のあいだ、両社は毎週、顔を合わせた打ち合わせを行い、綿密な確認を続けた。そして提案依頼書(RFP)を作成し、大きく4つの要件を定めた。

・クラウドを活用した共同利用
・共同利用に伴う、適正なコスト(利用料)
・倫理研究申請から承認、計画書の出力や集計など、複雑な業務を一つのシステムで完結する
・高度なセキュリティを担保できる

クラウド化を念頭に置いたのは、複数企業による共同利用と、法令・指針などの改正に対してシステムを柔軟に変更して対応できるためである。特に慎重な取り扱いが必要とされる「要配慮個人情報」を扱うために、厳しいセキュリティ要件を満たすクラウド基盤は必須であった。各社がそれぞれで機密情報を扱うため、マルチテナントで構築する仕様も想定した。
こうした厳しい要件を満たすことができたのが、B-EN-Gの提案だった。検討した結果、新たに開発する倫理・ボランティアシステムの基盤には、可用性の高いMicrosoft Azureクラウド上で構築されたBusiness b-ridgeを採用することを決定した。

実際の開発はどうだったのだろうか。岡部氏は、「開発というよりはBusiness b-ridgeの基本機能を用いて設定を行っていく作業が中心でした」と語る。また、「ビジネス側がIT部門側に歩み寄ってくれたことだと考えています。共通化のために社内だけでなく、両社でもすり合わせをすることで、指針に対する解釈の統一や業務プロセスの標準化にもつながりました」
柴田氏は「他社とすり合わせを行うのは初めてのことでしたが、運用面で一部、それぞれの企業の選択が異なったくらいでした。全体の90%ほどは同じつくりになっています」
こうして出来上がったBusiness b-ridgeを基盤とした倫理・ボランティアシステムは、2018年4月より運用が開始されている。

運用と効果:第一三共の効果

必要な資料が単一のシステムで一貫性を維持して管理できる

山田氏は、第一三共における効果を次のように語る。
「審査資料には、申請書や計画書、試料提供のための同意文書など、さまざまな文書があります。新システムは、審査から承認までのすべてのプロセスが一貫性を保って処理し、必要な審査資料をすべて一元管理できます。検索や変更が簡単になり、審査資料の整合性を損なうリスクも解消されました」と話す。
 さらに、旧倫理システムでは、倫理委員会での答申を経て、計画書を作成し、実施許可を得るまでの業務プロセスが、複数のシステムをまたいでいたため、複雑で工数もかかる業務であったが、新しいシステムでは、承認までの期間が半分以下になるなど大幅に効率化されたという。
 システム面からは、岡部氏は、「クラウドであることから、運用管理のオペレーションをすべてB-EN-Gに任せられるので、運用管理の負荷は大幅に軽減されました」と話している。

運用と効果:アステラス製薬の効果

倫理審査の複雑なプロセスを自動化、工数の削減やリスクの低減を実現

アステラス製薬では、新しい倫理・ボランティアシステムを、“ヒト”を対象とした研究に対して、倫理指針に基づいて、きちんと倫理審査を行い、研究実施機関の長に承認されるまでのプロセスを自動化する仕組みと位置づけている。取り扱いは膨大な数の申請であり、中には変更や修正が発生する場合もある。
柴田氏は、「計画を立て、レビューをして、研究責任者が委員会に審査を依頼し、委員会が審査をしたうえで、研究実施機関の長に答申を行うという複雑な処理のプロセスを自動化できました。すべての情報が一元管理され、研究ごとにひもづいているので、一度登録してしまえば、たとえ変更が発生しても、認識違いや書類の不備を防ぐことができます。メッセージ機能や一斉通知機能があるため、コミュニケーションロスは格段に減少しています。処理の流れは大きく変わっていませんが、おおよそ工数は約3分の2に削減されました。細かい部分で事務局の作業が減っています。正しくない処理をした場合にはエラーを通知してくれたり、1つの承認が終わったらその旨を関係者に通知してくれたりと、システムが自動的に“気づき”を与えてくれるので、人的エラーも大幅に減っています」と手応えを示す。
 システム面では小林氏は「システムのライフサイクルにとらわれず、法改正などに、タイムリーに対応できる柔軟性が確保できました」と話す。事実、すでに次指針への改定作業が政府によって進められており、今後それに対してもスピーディな対応が可能になる見込みだ。

今後の展望

多くの企業の参画によるシステムの成長を期待

今回のBusiness b-ridgeをベースとした倫理・ボランティアシステムでは、利用企業からなる運営委員会を持ちB-EN-Gの開発チームと連携し、日々の改善活動や倫理指針変更へも直ぐに対応できる体制をとっている。
「Business b-ridgeをベースとした今回のシステムは、なるべく各社でカスタマイズせずに使用でき、環境の変化に迅速に対応できることを方針に掲げたパッケージとして開発しています。また2社どちらのものでなく、各社の智を結集して作り上げた共通の基盤です。ここに多くの企業が参画すればより良いものに成長させていくことができると考えています。」と小林氏は話している。
個別にスクラッチで開発をするといった旧来の在り方から、業界標準を目指し、複数企業が協力し合うという新時代の取り組みは今後も拡大していきそうだ。

 

※記事内における組織名、役職、数値データなどは2019年6月現在のものです。閲覧される時点では変更されている可能性があります。ご了承ください。

 

Business b-ridge利用シーン集

Business b-ridge
利用シーン集

実際にBusiness b-ridgeが利用されているシーンをBefore/Afterで一気に解説します

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倫理・ボランティアシステム

「倫理・ボランティアシステム」リーフレット

Business b-ridge「倫理・ボランティアシステム」リーフレットです。

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