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コラム

SCM

シングルウィンドウとは?-製造業にとっての有用性と可能性-(2/2)

シングルウィンドウの国際連携の課題と取組み

シングルウィンドウの国際連携をビジネスで活用する上の懸念点は、ビジネスサイド、各業界サイドから必要な要件などを積極的に提供しない限り、使い勝手の良いシングルウィンドウの国際ネットワークにはならない、ということです。一方、貿易を行う、あるいは貿易に関係する業界は多数存在するので、ある程度業界間での調整も必要になると考えられます。

これに対して、各国のシングルウィンドウ提供側にもハードルがあります。即ち、仮にシングルウィンドウの国際ネットワークを作ろうとしても、想定される多くの利用者が、取り敢えず今のままで間に合っている、利用しない可能性があると政治のTOPが考えた場合、例えばネットワーク構築のための公的資金の導入や必要な法制面の整備等の具体的な施策が取り難くなります。

このように各国のシングルウィンドウの提供者側と利用者側が、国際ネットワーク化について牽制しあっていては、それ以上進展しにくいのは否めません。
このような状況を打開するため、国連欧州経済委員会(UNECE)は、勧告第36号「シングルウィンドウ間の相互運用性」で、積極的に推進を支援するとしています。

ASEANの先駆的な取組み

その点、ASEANシングルウィンドウ(図4)は、一歩踏み込んだ先駆的な例といえます。ASEANシングルウィンドウは、資金的には、一部米国からの政府援助(US AID)を受け、ASEAN各国の公的関係機関のイニシアティブにより構築されたものです。まだ構築されたばかりということもあって、2016年から実際にデータ交換が行われてを行っているのは、民間の貿易取引関連の商用データではなく、先ずは各国政府間の合意に基づくASEAN域内原産地証明(ATIGA Form D)のような公的な文書データからスタートしました。

図4:ASEANシングルウインドウ概念図
                <図4:ASEANシングルウインドウ概念図>

2015年12月31日に発足したAEC(ASEAN Economic Community: ASEAN経済共同体)は関税同盟ではなく自由貿易協定(Free Trade Agreement:FTA)をベースにしたものですから、貿易取引を原産地規則で管理することが必須となります。従って、原産地証明書の電子データによる域内相互交換がASEANシングルウィンドウの当初の大きな狙いであったとも考えられ、そのような事情から原産地証明が当面の運用の対象となっています。今後は、更に輸出国が発行する動植物検査証明書(Health Certificate)や輸出入申告書等(Export/Import Declaration)にも拡大していく予定です。

日本NACCSとASEANの連携の可能性

  1. ASEAN諸国で今後更に電子原産地証明の利用が拡大して行けば、ASEANとEPA協定を結んでいる日本としても、日本のシングルウィンドウであるNACCS経由の電子的な対応が必要になることが想定されます。

    ここまで、シングルウィンドウの国内における貿易手続き上の効果と、これを国際的に連携することによる貿易そのものの推進の可能性を見てきました。

    情勢の進展はどこが起点となるか分からず、いつ、どのくらいのスピードで進行するかも分かりません。

    日本においては、貿易ビジネスに係るすべての業界が、日本のシングルウィンドウNACCSを十分に使いこなすこと、若しくは自社の貿易固有システムをNACCSと連携することにより、輸出入手続きの効率化・円滑化、その結果としての総合的な流通コストの縮減が実現できると思われます。上記のようなASEANの動きなど外的な要因も考慮すると、大きな流れに沿って早めに対応しておいた方が、利得が大きいと言えるのではないでしょうか。

  2. シングルウィンドウのグローバル・各国での状況2017年

    シングルウィンドウのグローバルでの状況を概観します。

      • ASEANでATIGA Form Dの電子データ交換が行われているのは、現在、シンガポール、インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナムの5ヶ国で、他5ヶ国は第二陣となります。
      • ASEANのうち、ベトナムとミャンマーには日本政府開発援助でNACCSを基にしたシステムが導入され、既に稼働しています。
      • シンガポールのシングルウィンドウTRADE NETシステムは、中東諸国やメキシコ等で導入されています。
      • 中国では現在国全体を包括的カバーするシングルウィンドウというよりは、輸出入貨物を取り扱う主要港のシステム(Port System)がシングルウィンドウ的な役割を果たしています。
      • 台湾、韓国にも、既にそれぞれシングルウィンドウの機能を持つシステムが稼働しています。
      • 米国のシングルウィンドウであるACE (Automated Commercial Environment)は昨年より本格的に利用開始されています。それまで利用されていたCustoms Broker用のABI(Automated Broker Interface)や主に船社が積荷目録等を登録するAMS(Automated Manifest System)等がACEに移行しており、Trade Securityに係る24時間ルール等の受付窓口としての機能が整備されています。
      • 中南米諸国ではアルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、メキシコ、ペルーなど、10ヶ国ほどでシングルウィンドウが稼働しています。
      • EUとしてのシングルウィンドウは、欧州各国のシングルウィンドウを”Exchange Platform”を介して連携する方式を取っていますが、まだ本格的に利用されていません。
      • アフリカ諸国では国連UNCTADが無償提供する税関システムASYCUDAをベースとしたものも含め、約半数の国がシングルウィンドウのシステムを稼働させています。

渡邊 浩吉 氏
渡邊 浩吉 氏
三菱商事株式会社OB。
2011年から日本貿易関係手続簡易化協会(JASTPRO)のシニア・アドバイザーとしてその調査事業の委嘱を受け、ASEANシングルウィンドウ、電子インボイス、アフリカの電子貿易などの調査を請負うと共に、国連CEFACTに係る日本の各種委員会の委員を務める。国連ESCAP、APEC、ASEAN等、国内外で広く講演を行う。