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コラム

グローバル

グローバルスタンダード(規格、基準、標準)からみるグローバル協調・協力・競争(3K)

3Kという言葉、一昔前の1980年代では「きつい、危険、きたない」を示す流行語でした。私がここで述べる3Kとは現代の3K、つまり協調・協力・競争を指します。本稿ではグローバルスタンダード(規格、基準、標準)からみる現代の3K(協調・協力・競争)について私見を述べたいと思います。

ヘルスケアのGMP/QMSにみる3K(協調・協力・競争)

ヘルスケア(医薬品と医療機器)の世界では、GMP(Good Manufacturing Practice:製造品質管理基準)の国際間協調が叫ばれています。

医薬品製造の世界ではGMPという言葉が広く使用され、最近のGMPはQA活動も含んだ形でGMPと呼ばれています。これはおそらくこの概念を生み出した米国FDA(食品医薬品局)が主導権を持って活動した結果と思われます。(もともと米国は自国が全て一番であると自負していることもあり、産業界一般に受け入れられているISO9000を、そのまま法規制のあるGMPと同一と見なせない背景がありました。)

一方、医療機器もスタートでは米国でGMPという言葉が使用されていました(21CFR820)。しかしヨーロッパでは多国間での基準ということもありISO9000ベースの考え方が先行し、医療機器が品質保証という基準のもとに管理されることになりました。
これを考慮しFDAはDevice GMPという用語をやめ、QSR(Quality System Regulation)として法規制に品質保証を強化し、改訂発効しました。以降、医療機器では、規制は品質システムという用語が中心となっています。
日本及びヨーロッパでは、品質マネージメントシステムQMSがGMPを含んだ形で用語として使用されています。すなわち医療機器の規制は普及のレベルではヨーロッパのISOベースと言えるかもしれません。
(但しISO13485は他のISO標準とは異なる性質のものですが。)

医薬品GMPにみる3K(協調・協力・競争)

話を医薬品GMPに限ると、代表的なものに欧州EU-GMP、米国のcGMP,日本のJ-GMP、それとグローバル対応のPIC/S GMPがあります。
PIC/Sとは、Pharmaceutical Inspection convention and Pharmaceutical Inspection Co-operation schemeで、査察当局間の非公式の協力の枠組みです。この枠組みは、Global Drug Supplyの時代になり、国単位に世界中の製造所を監視することは不可能になってきていることに対して、これらを解消するためにグローバルな監視体制の実現を目指しているものです。

もともとGMPの概念が米国から出されていますが、現在ではEUにはEU共通のEU-GMPがあります。(とはいえこれはもともと英国のGMPです。)また日本には日本のGMPがあります。PIC/SはEU-GMPの内容をそのまま引き継ぎながらグローバル展開を進めています。PIC/SはEUのみならず北米、アジア、オーストラリアなどを含むグローバルな団体として発展し、米国も近年参加しており、日本も近い将来PIC/S加盟を実現すべく活動中です。日本の場合PIC/S GMPを採用することは協調ですが、もともとあるJ-GMPとは競合するので、例えばJ-GMPの内容とPIC/S GMPの内容を比較検討し、GMPとGCP(Good Clinical Practice:医薬品の臨床試験の実施の基準)省令の適用範囲の違いの調整が必要となります。これが協力です。時代的にはcGMPに歴史があるにも関わらずEU-GMPが普及すると考えるとこれは競争です。
そして結局これはEU-GMP(そして英国のGMP)がGMPの標準になるであることを予見されます。

欧米にみる3K(協調・協力・競争)

欧米というと日本からは一枚岩に見えますが、大きく見るとアメリカ、イギリスそして一部はフランスの競争とも思われます。
フランスはIEC(電気関連)で勢力を持っており、IEC規格は英語と仏語の併記です。米国は米国の標準を国際化しやすくするために最近活動を強化したと聞いています。英国はご存じのとおり、BSをISOとして世界に普及するべく活動しています。ここにも競争があります。
グローバル化すればするほど、協調の面が強調されますが、協力・協調のほかに競争があることも忘れるべきではないでしょう。
それでも日本のアプローチは膨大な時間と手間をかけてでも多様化する対象を全て受入れてしまうのかもしれませんが。

単位の標準化にみる3K(協調・協力・競争)

別の面ではSI単位があります。長年フィート、ポンドを使用していた米国もさすがにSIを導入せざるを得なくなりました。これは米国の産業競争力の低下と無関係とは思えません。
私が昔担当したプラント建設では、実にこの接続規格の違いが全ての取り合いで問題を起こしました。ねじのような部品一つの取り合いの違いで接続ができないからです。
そういう競争では、日本は言語の問題もあり競争の蚊帳の外です。

規格と実証データにみる3K(協調・協力・競争)

米国と日本、欧州の規格の作り方の違いのもう一つの面として、米国はプラグマティズムであり実用面からの検討が基準に反映される事が多いということです。
原子力では壁の強度計算が適切かどうかを確認するため、過酷な条件として実際に列車を原子炉建屋に摸した壁に衝突させたり、石油関係では外部火災におけるタンクの耐火性を決定するために、実際に石油タンクを建設し周りに火災環境を構築してデータを収集したりします。バリデーションで要求されるチャレンジテストなどもそのような実証的な考え方が背景にあるように思われます。

多言語と多文化への対応に見る3K(協調・協力・競争)

話が飛躍しますが、日本語を考えると中身は大和言葉、中国語、最近では英語があり、文字も漢字、カタカナ、ひらかな、ローマ字と多種多様です。
中国で勉強し日本にやってきた知人の中国人が、あるときいった言葉「中国では正しい日本語ということで日本語の日本語を学んできたが、日本に来てみると多種多様の外国語の日本語があり、理解するのに大変苦労した」と。それほど日本語は多様な文化を比較的容易に受け入れてきました。中国では、外来語は必ず中国語に置き換えざるを得ない、とのことでした。食の文化についても同じことが言えます。日本食以外に多くの国の食事を楽しめる国はそう多くないと聞きます。

その意味では日本は協調の文化です。その良し悪しは別として、欧米は白黒決着をつける文化ですが、日本は必ずしもそうではありません。それゆえ最大公約数的に、すべての場合に対応できるのは強みともいえます。ただし取り扱う対象は広がってしまうという問題は残ります。
英語圏の人間が英語のみで世界で活動する手間と時間は、多言語を使用しなければならない人間と比べていかに少ないことか、これは言語における競争かもしれません。

標準化に有効なのは協力とボランティア活動

標準化には、協力とボランティア活動が有効です。
人生が有限であることを考えると、限りのある時間を有効に使用するためには無駄なダブりを省くことが必要です。すなわち、共通の問題とその解決案は企業の機密云々というレベルよりも、もっと一般的に共通的なものが多いです。このようなものは多くの人がそれに時間をかけるよりも、誰かがそれを積極的に公開して、解決策を提示すれば、同じ問題を抱えていた人は別の問題に取り組む時間を得ることができます。欧米のボランティア活動で作られる基準や規格は、どちらかというとこのような考え方に基づくように思われます。
すなわち、標準化への協力は個人レベルでの無駄を省く、というメリットがあります。また、このような標準化には、個人の生活の質の向上や、それ自身が社会に貢献するといった生きがいに通じる場合があります。単なる災害復旧支援のみがボランティア活動ではなく、もっと広く社会に貢献するという意味では、ヘルスケアであれほかの分野であれ、ありうる活動です。

日本にはあまりなじみがないボランティア活動による標準化の成果物として、例えば、ヘルスケア部門ではGAMPの医薬関連コンピュータ化システムバリデーション(CSV)関連のガイダンス、米国のISAの計装関連の標準があります。ITにおけるLINUXの開発などもまさにこのようなものです。
全てが会社中心、企業中心となる日本の技術者にとっては生きがいの問題も含め、このような活動もこれからは重要な意味を持つのではないかと考えます。

以上のように、グローバル時代には、常に協調・協力・競争の3つの力が働きます。私たちの業務においても、グローバルにおける協調面と競争面に目を向けて先行きを見渡し対応して行く必要があります。

藤田 雄一
藤田 雄一
ビジネスエンジニアリング株式会社
アンモニアやエチレンなどのプロセスや原子力電力・再処理施設、遊園地などの設備の計装・制御設計を経て、ヘルスケア業界におけるPLC、DCS、MESやERPのコンピュータバリデーションを担当し現在に至る。
ISA日本支部会員、ISPE日本本部GAMP COP会員 元副委員長